●どうもこんにちは。白木哲朗です。相変わらずだめだめな日々を過ごしているぼくですが、あなたは今日はどんな一日でした?いい日でしたか?
●早いもので札幌での生活も終わりを迎え、来週からは美瑛の農民へと戻ります。この冬の間になにか成長したのかと聞かれたらう~むといきなり旗色は悪くなってしまうのですが、今回はひと冬住んだ澄川や札幌でのことを振り返りつつ、明日への希望を投げ放つようなことを書いてみたいなと思っているのです。
●まずはタネから育てる漬物セット~白木哲朗ブック~をご購入いただいた皆様ほんとうにありがとうございます。全く売れずに夏の間に畑で稼いだお金を在庫の自腹購入に費やすのだなと思っていたのですが、そうはならずに済みそうな気配もあったりするので、ほんとうにこの場をお借りして感謝の気持ちをお伝えできればと思うので是非受け取ってください。思えばこの冬にぼくがなにかしっかりした足跡を残したと言えるのは100部限定でも売れ残りが心配になるような「種から育てる漬物セット」というよくわからないものだけでした。しかしまぁぼくはもともとが陰気で根暗で湿り気の多いだめなやつなので、あまり華やかな世界とはそもそも縁がないんだなぁということをこの冬は骨の芯までしっかり思い知らされました。
●とはいえ昨日のぼくは3月末日で無事あざらし舎での仕事を終えて、あざらし先生にお寿司をごちそうになり、あとはもう明るい世界がぼくを待っているのだ!いぇい!なんて思っていたのです。かわいいですね。しかし4月1日にしてもうぼくはアンニュイでナーバスな気持ちになっているのです。
●3月末日の夜はなんとなくお寿司を食べさせてもらったし、美瑛に戻るのに少し時間もあるしという解放感から深酒をしてしまい、4月1日の昼頃起きました。するとあざらし先生から電話があり、「昨日言い忘れたんだけど保険証の返却とかもろもろの書類にサインをして欲しいから今日こっちに来てくれる?時間はいつでもいいからさ」ということで西野へと向かうことになったのです。陰気で根暗で流れ者のぼくに仕事と金をくれて保険まで用意してくれる。あざらし舎は実にホワイトな会社なのです。しかし悲しいかな、ダメ人間の極み的にヨオシ!とやる気を出すでもなく節目の二度寝をして家を出る前に歯を磨きました。するとなんと歯の詰め物がなんの脈絡もなくポロリと取れてしまったのです。あたふたするも打つ手なしの夕方5時で急いで西野へと向かい、保険証を返すときにひと冬使うことのなかった保険証でしたが、返した瞬間に保険証が必要になってしまいました。へへ。と卑屈に笑うとあざらし先生に本当に気の毒な人を見る眼で見られてしまったので、あっそうだ、この感じだ、この感じがぼくの平常運転だ、間違っても自分は華やかな世界に縁があるなんて思ってはいけないのだと思い知らされました。
●澄川に帰り、詰め物の取れた歯を舌で確かめながら自分の間の悪さと自堕落さにしばらく自己嫌悪に陥ってから、まずは歯医者さんに行かないとなぁと思い近所をうろうろしてみました。(澄川は歯医者さんとか個人医院とか美容室がとても多いところなのです)しかしこれといったピンと来る歯医者さんはなく、むしろ歯医者さんの前を通るたびに怪しげな場所に見えて来てしまい、もうぼくはこのまま歯抜けで一生暮らしていくんだ、なんて思いまたもやもやと自己嫌悪に陥りました。
●兄が病院で働いていることを思い出し、ダメもとでいい歯医者さんを教えておくれと聞いたら説得力のある説明と一緒にいい歯医者さんを教えてくれました。母から歯のない人は信用してはいけませんよ、と教えられてきたので、歯抜けのままで暮らして行くことは半分冗談だったのですが、こんなに歯医者さんが多い街に住んでいるのに歯医者さん怖さからどこにも入れずにいた自分が恥ずかしくなるのと同時に、持つべきものはしっかり者の長男だな、なんてことを思いました。だってたいした知り合いもいない街で自分の間の悪さから突然歯医者さんを探す不安さってわかりますか?
●その時にはもう夜遅くなっていたので、一区切りついた安心感といい歯医者さんにかかれるという安心感の相乗効果で缶ビールをがぶがぶ飲んで明日に備えて寝ました。翌朝起きるとすぐに南区役所へ行き保険証の手続きをして、兄の教えてくれた歯医者さんに電話をしました。しかし間の悪い星のもとに生まれてきたぼくですから、歯医者さんは臨時休業の日でした。留守番電話に受付の人と思われる女性の声で院長が不在のため本日は休診です。と吹き込まれていたのですが、留守番電話の録音と気付かずに、「こんにちは、〇〇歯科です、本日は…」なんて事務的な声に録音と気付くこともできないほど緊張しているぼくは、「えっと歯の詰め物が取れてしまって、あの、その、今日歯を見てもらえませんでしょうか」なんて言いながら途中でおかしいなと思い、「あっ、これ留守番電話の録音だ!」と気付いた時のぼくの顔の赤さは真夏のトマトもびっくり!という赤さだったと思います。体温もサーモグラフィーで見たら真っ赤っかだったと思います。
●冬仕事が終わって新しい始まりの日がこの調子ですから、今年の夏はどうなるんだろうかと不安しかありません。無事にまた冬を迎えることが出来ますように、と春もまだそこそこなのに思っています。思えば数年ぶりに札幌で冬を過ごすことになった時に、美瑛の畑の人たちはエールを込めて暖かくぼくを送り出してくれました。また春になったらバイクでどっか行こうね、と言ってくれる農場長や、すすきのに先輩がやってるマッサージ風のエロい店あるからここぞと言う時には連絡しいや、なんてことを言う怪しげな姫路弁のオニイサンもいましたが、不安でいっぱいなぼくは頑張ってくるよ!また春に!なんて言って美瑛を後にしたりしたのですね。かわいいですね。
●人生経験豊富な百姓屋の青さんは札幌で女の一人二人作って来いよ、なんてぼくの背中を叩いて、ぼくはぼくで売り言葉に買い言葉みたいな感じで一人二人と言わず両手で数えきれないほどの女の人と仲良くなってくるぜい!春には数えきれなかった女の人を数えるのに指を貸してね、なんてイキって美瑛を飛び出してきたのですが、この冬は女の人と何回喋っただろうという寂しい日々でした。セイコマと昼飯のラーメン屋さんの女性店員を除けば、この冬ぼくが喋った女の人は印刷屋さんの受付兼事務風のおばさんと、コーチャンフォーミュンヘン大橋店のミスドの女の人だけでした。
●ミスドの女の人は明らかに異性としてではなく、ドーナツを頼むのにしどろもどろなぼくに大きな母性でかまってくれただけのように思いますし、印刷屋さんのおばさんは事務的にぼくを目的の部署に案内するだけで、それも何度も顔を見せて慣れてくると手の動きだけでこっち、とかあっちと目も合わさずジェスチャーでぼくを案内するようになったので、まともに女の人と話すこともないさみしい冬でした。あとこの冬話した女の人と言うと兄のお嫁さんぐらいしか思いつかないなぁ。あっ、近所の銭湯の番台のおばちゃんと、髪を切ってる時に理容室のおばちゃんとも少し話したけれどこれもなんだかパッとしないなぁ。青さんごめんよ、ぼくは今年の冬もなにも成長できませんでした。
●昔の歌じゃないけれど、「1月2月3月と、ぼくの人生暗かった」。ほんとうはもう少し澄川のことや札幌での生活のことを書きたかったのですが、どうもこんな感じで澄川日記~ひと冬分特大号その①~はおしまいなのですだ。札幌での暮らしは一から十までバカでした。わはは。
農業見習い中
白木哲朗のエッセイ百番勝負