038:澄川日記~ひと冬特大号!その2~

お久しぶりでございます。白木哲朗でございます。
この冬の札幌での生活を振り返ってみよう!その①!うーいぇい!などと意気揚々と書き出したのはいいものの、いつの間にか札幌を離れ農民その①となり気が付けば季節は春になってしまっていました。その間にぼくの小さな生活もがらっと変わって、雪が溶け始めたと思ったら全国に緊急事態宣言なるものが発令されたり、スーパーからケツを拭いたり鼻をかむ紙がなくなったりとなんだか慌ただしく世の中が動いていますね。
ぼくの近況はと言えば、美瑛に生活の拠点を移して小汚い作業服を着て農作業に精を出しています。一年分高齢化が進んだ畑で貴重な若者として下っ端仕事の水くみや資材運びやゴミ燃やし等の雑用で忙しくしています。あざらし舎に所属してスーツを着て書店をまわっていた少し前のことが遥か遠い昔のように感じられます。
この冬にあざらし舎で働かせてもらい仕事の一環として川湯への取材に同行させて頂いた時に、川湯に人がいないのはコロナだけじゃないよ、なんて力強く笑っている温泉宿のおばあちゃんがいましたが、ぼくのいる美瑛の山奥も同様に年がら年中人がいないので、テレビニュースやラジオで緊迫した感じに聞こえてくる「街の変化」とは?というようなことを思いながら過ごしたりしています。だってぼくがマクドナルドのドライブスルーでハンバーガーを買って食べたと話したら、なんてハイカラなことをするんだ、お前の分も出してやるからおれにもハンバーガーを買ってきてくれ!頼む!ドライブスルーっていうのはやっぱり相当難しいものなんだろう? 今ハンバーガーっていくらぐらいするんだ? 最後にマクドナルドを食べたのはいつだっけ? なんて調子で一日中マクドナルドについての質問攻めにあうというような田舎なので、大きな街や国で起こっている非常事態と言うものが実際のところどんなものなのかよくわからないのです。同じ世界に住んでいるのに不思議なものですね。
小さな町のさらに田舎の、コンビニもないしごはんを食べるところなんてもちろんなくて、道路も終点行き止まり。というような山奥で暮らしていると、マクドナルドで思い出すのは若い頃銀座にハンバーガーの店ができた時は飛んで行って並んで食って、こんなうまいもんは他にないと思ったなぁ、あの頃はハンバーガーひとついくらで同じ値段でタバコが何箱買えてな、というようなことなので、今を何年後か何十年後かに振り返った時に、今生まれていない人たちが「うっそー?冗談はヨッシーアイランドなんですけどぉ、タピタピ」なんて笑っている世の中が来るといいですね。ぼくはそう思っています。
思えば札幌で過ごしたひと冬の間に、ぼくってやっぱり田舎者だなぁと思うことがたくさんありました。学生時代とそれから何年か札幌で過ごしていた時期もあるのでまるで街の生活を知らないというわけでもないのですが、やっぱり根が田舎者なので大都会札幌にいる時のぼくはどこか落ち着かないというか居心地が悪いというか、入学式直前の新入生のような気持ちで過ごすことになるのですね。誰も知り合いのいない遠い街の学校に進学して、知らない人達が親し気に話しているのをあらゆるドキドキをミックスした心模様でひとりぼっちでただ見ている。冬の間ぼくはずっとそんな気持ちを持ち歩いていたような気がします。
この冬の仕事が始まった頃「もちろん車で来るよね」と言われたのですが、初めの頃は少し無理を言って地下鉄で通勤させてもらっていました。車と地下鉄どっちで通勤してもいいよ、なんて状況があればみなさんはどちらを選ぶでしょうか。
なんとなく車派が多いのかなぁなんて思うのですが、大都会札幌にいる→地下鉄で通勤している→立派なシティーボーイ→明日のモダンボーイ→輝く未来というステレオタイプな図式がぼくの中にあり、そもそもまともな社会人経験のないぼくは地下鉄で通勤するということにイジョウな憧れがあって、都会の人からはバカにされるというのはわかっていても、とにかく地下鉄で通勤するということをしてみたかったのです。
今振り返ってみれば仕事が始まる前というのは「さぁこれから仕事を覚えて頑張るぞ!一に挨拶二にメモで三四は根性五に徹夜」などと意気込むのが当たり前だと思うのですが(少し違うかナ)ぼくはその時「地下鉄で通勤したい!」ということしか考えていませんでした。
これはダメですね。そんなぼくがひと冬クビになることもなく、窓際に追いやられることもなく、もうこいつはどうしようもないと持て余されて兵糧攻めにあったり逆さづりにされたりすることもなく春を迎えることができたので、やっぱりあざらし舎はほんとうに素敵な会社だと思います。
初めて仕事で本屋さんに行った時のことは今でも覚えています。いや、行った本屋さんでなにを話したとかどうやって辿り着いたとかは全く覚えていないので正しくは初めて本屋さんに仕事で行く直前のことなのですが、その日ぼくはスーツを着て事務所(!)のデスクに座り、ノートと三色ボールペンを持ちあざらし先生から出版業界とは、ということを教えてもらっていました。本が一冊世に出るにあたっての仕事の流れや、それに伴う取材やそれをどう紙の上に表現するかというデザインや装丁の話や、そもそもどんな本を作るか、雑誌小説図鑑教科書…、いずれにせよそれに関わる印刷屋さんとのやりとりや流通過程だとか、本が出来てからがまた忙しくてねなんて業界のリアルな部分や、そもそもの出版業界のお金の流れはね…なんてことを社会経験のないずぶな素人というか、ウブなネンネというか出版業界どころか都会で働く!地下鉄通勤!シティライフ!なんて浮き足立っていたぼくにあざらし先生は優しく穏やかに教えてくれました。
しかしみなさん存知の通り、バカで不器用で理解力も乏しいぼくにあざらし先生はセルフ式にタオルを投げたのか、まぁ難しいことを言っちゃうと混乱しちゃうかもしれないから、とりあえず本屋さんに行ってみてからだね!なんてことを言って、あまり難しいことは考えないで、とりあえず踊ってみてよ、なんてことを言うのです。ぼくもぼくでもう全てがわからない世界でのことですから混乱しながら踊ってみます。「よしいいぞ!もっと激しく!」なんていわれてぼくもなんだか踊れる気がして、自分なりにヘイホーヘイホー言いながら奇妙なステップを踏んでこんな感じですか!なんて言ってみたりして踊り続けます。
「こうですか!?」なんてぼくなりにステップを刻んでみたりしていると、
 「ようしいいぞ、そのまま本屋さんへ行けえ!」
というような感じで本屋さんへ行ったような気がするので、初めて仕事で本屋さんに行く直前のドキドキ心模様ファーストシーズン…ステップ1~社会人としての心得とマナーと基礎知識~ というようなものはまるでなく、踊れ!そのまま本屋さんへ突撃だ!というあざらし先生の力強い言葉が妙に頭に残っています。
冬のことを思い出したり当時のメモなんかをみてみると大抵へたれで情けないことばかりしていたみたいで、我ながらむむむ…!と11月のカエルのような顔になってしまうのですが、しかしもう春だしな、と思いながら今年の夏はちょっと違うぞ!なんて意味もなく見栄を切って川原で缶ビールなどを飲んでみたりしている今日この頃でした。ではではさようなら。