●冷たい雨がやんで桜が咲いて春がやって来た。久しぶりの美瑛は暖かかった。
●わけもなく住まいとしてガレージの元農機具置き場を間借りしているわけなんだけれど、一冬無人だったややボロい我が家を心配しつつ扉を開く。一冬分のほこりが積もって蜘蛛の巣が張っている他は拍子抜けするぐらい出て行った時のままだった。窓を大きく開けて春の風を部屋に招いてから蜘蛛の巣をやっつけてほこりを払い早速散歩に出かけた。
●実に気分がよろしく春らしい。目的は例によって特にないのだけれど、パトロールと称してあちこち歩いてしっかり春になっていることを確認していると、無性に気分が良くなってきたので、缶ビールを調達して豆せんべいと文庫本をお供に川へと向かった。
●気分は花見。こんな気持ちわかるでしょう?川を渡ってくるまだ冷たい風と、冬の寒さを忘れたかのようなのどかでやわらかい空気。飲みかけの缶ビール。読みかけの文庫本。鳥は鳴くし魚も跳ねる。傾いた日差しが川向こうの斜面にひっそりと咲いている山桜を突き刺すように照らす。なんだかしなくちゃいけないことがあった気がするんだけれど、「ひとまず置いといて…」という言葉がこれほど自然と出てくるシチュエーションってちょっと他にはすぐに思いつかない。
●「ひとまず置いとかない」と言って手帳なんかを取り出しつつしなくちゃいけないことを思い出したり、そこから実際にしなくちゃいけなかったことをしちゃえる人がいたら、どうしたらそんなことができるのか聞いてみたい。でも多分そういうストイックな人はそもそも缶ビール片手に河原をうろうろしたりしないだろうから、話をする機会もないんだろうなぁ。などと実のないことを思いつつ、その日はなんもかんも春のせいにして自堕落な一日を過ごした。
●人はいつ罪を背負ってしまうのか。今日ぼくはなんとなく罪深いことをしてしまったのではないだろうか、いかんいかん、と思いつつ春の一日は過ぎていくのでした。〈2019年5月16日16:47記〉
農業見習い中
白木哲朗のエッセイ百番勝負