014:なみだ涙のわさび漬け

春が好きだ。多分「春なんかキライだよっ!」と言う人は少ないと思うけれど、春っていいですよね。まず昼間は暖かく、夜になるとキリっと冷える、メリハリのある感じ。寒けりゃもうとことん寒いだけの冬や、暑くて暑くてやっと夜かと思ってもまだまだ暑くて寝苦しい夏なんかにはない、親しみやすさや優しさを感じる。
じゃあ秋も似たようなものじゃないか、と言う人もいるだろうけれど、日がどんどん短くなり寒くなっていくだけの秋と、日ごとに伸びていく日照時間と暖かくなっていく一方の春を同じにしてはいけない。遅く来た秋と言うとなんだか切なくて寂し気で避けようのない悲しみ、という感じでおまけになんだか犯罪的な匂いがするけれど、遅咲きの春なんて言うと手放しで、ああよかったよかった、よくがんばった、努力は必ず報われるんだ、おっちゃん明日は馬券当てちゃうヨォと言った感じで、いつか努力は報われるんだと人々は前を向き、希望や喜びを分かち合い明るい未来、という風にどうしてもなってしまう。このあたりに春と秋の決定的な差がある。
なんだか話が逸れてしまったけれど、春と言えばなんと言っても山菜ですね。冷たい雪の下でじっと春を待ち、ようやく芽吹いた生命のかたまり。それを目ざとく探し食べる人間。山菜の側に立てば、さぁこれから!と言うときにたまったもんじゃないよなぁ、と思うけれど、みんな山菜を採ったり食べたりするのを楽しみにしている。
そこで今回はぼくのお気に入りの山菜を紹介します。ずばりその名はわさび菜というもので、スーハー系の鮮烈な辛さと爽やかな香りに、少しのほろ苦さを持つシャキッとした山菜で、生でよし漬けものでよしというなかなか実力派の山菜なのだ。
こいつは山わさびでもレタスの仲間みたいなわさび菜でもなく、寿司や刺身でお馴染みのいわゆる本わさびの葉っぱなのですね。北海道に本わさびがあるのか?と聞かれたら「あるのです」と言うしかないのだけど、根っこは食べるほど大きくならないので、みなさんが想像しているわさびとはかなり違っています。なので少し説明すると、種類はあのわさびと同じだけど、この辺にあるわさびは陸に生えているので根っこが大きくならないのです。水辺で育つといわゆる本わさび!になるそうだけど、どうも環境が合わないようで水辺で見かけたことはない。ならばと思い水辺に移植してみたけれど、どうもうまく育たなかった。
今日はそのわさび菜を漬けものにして食べた。いつも芸なく生でむしゃむしゃと食べていたのだけど、近所のおばちゃんが「漬けものにしたらもっと美味しいよ」と作り方を教えてくれたので、ようし!と作ってみたら、これが生で食べるよりもツンとしていて、そのままでもよし、ほかほかごはんに乗せてもよし、豆腐にもよし、それからお茶漬けにもよしと、食卓で大車輪の活躍を見せてあっという間になくなってしまった。
この素晴らしい植物が家から歩いてすぐのところに生えているのだから、いやぁ、春っていいなぁ。長い冬を終えてようやくやってきた春だから、なおさらだよなぁ。 そんなことをあちこちの路肩に停められた車を見る度に思ってはにやにやしているのでした。<2019年5月15日22:42記>