010:☆青森旅日記4日目~宿主さんと一度も会わずに帰宅~byひなこ(39歳)

 

 

5時頃、Kさんが身支度をする音で目が覚めました。コーヒーを入れてもらい、少しおしゃべりをして、仕事に行くKさんを見送ってからお風呂に向かいます。お風呂場は無人で、脱衣場にもおばあちゃんはもういませんでした。あれは夢だったのかな? 朝で誰もいないせいか、お湯は昨日ほど熱くなく、私でものんびり入ってられる温度になっています。やった!とお風呂に浸かっていると、おばあちゃんがよたよたと入ってきました。この温泉には療養で来ているというおばあちゃんの膝から下は酷い火傷で、皮膚が剥け赤くなっています。この火傷は間違えて源泉がかかってしまったと話していたので心配だったけれど、お風呂に入るとサッパリするの~と話していました。
「そこのね、お湯が出ている所のバルブをひねれば、お湯が出てきてあったかくなるからね」
「わかりましたー」
「熱くしてもいいよ~」
「ありがとうござますー」
「熱くしてもいいんだよ~」
熱いお湯に入りたい様子です。バルブをひねると、お湯はみるみるうちに熱くなり、浴槽からどんどん溢れてきます。湯舟に腰かけて足だけ入れていたおばあちゃんは桶を枕にして気持ちよさそうに仰向けになりました。
熱すぎる温度になったお風呂から退散し身支度をして、チェックアウトです。改めて部屋を見回すと、畳敷きの広い部屋は明るく気持ちが良く、リンゴ畑が見える窓は掃き出し窓になっていて、よく見ると縁側がついています。本やスケッチブックを持ち込んで、のんびり数泊するのも良いなぁ、と思いました。

そういえば宿の人には一度も会っていません。昨日のおばあちゃんはカップラーメンをもって、とことこと廊下の奥を歩いていました。部屋に戻った様子はないし、どこで過ごしているんだろう…謎だらけです。隣の部屋のカップルの片割れらしきおじさんが台所にいて、フライパンでラーメンを作っていたので、会計はどうしたら良いか聞いてみました。
「宿のおばあちゃんは足が悪いから、こっちまで来れないんだよ~。お風呂場にある紙に名前を書いて、お金と一緒に置いておけば良いよ~」
結局、宿の人には一度も会わないまま宿泊代1,000円を払い、梅沢温泉を後にしました。

陸奥鶴田駅の近くに喫茶店があるので、汽車の時間まで珈琲でも飲んでいようとてくてくと歩いていると、「お~い」と、後ろから声をかけられました。振り返ると、隣の部屋にいたカップルです。
「どこまで行くのぉ~!? 駅? どんくらいで着くの? 一時間!!! 歩くもんじゃないよ~乗ってきな~!」と陸奥鶴田駅まで乗せてくれる事になりました。
彼らは青森から来ている温泉好きで、先週も梅沢温泉に泊まりに来ていたそうです。Kさんはその時からすでにいたらしく、いつから泊まっているんだろうね~と話していました。
「次に来るときは、酸ヶ湯温泉もおススメだよ~。いろいろ温泉に入っているけど、真冬の酸ヶ湯温泉は最高だよ!」と教えてくれました。森の中の果樹園と、酸ヶ湯温泉と、宮城のキツネ村。行ってみたい所が増えて嬉しいです。
徒歩で1時間の距離も、車では10分くらいで到着です。彼らを見送り、樹木希林によく似たママのいる喫茶店に入ってケーキを食べながら汽車を待ち、11時16分発の汽車で弘前に向かいます。

弘前駅は久しぶりの大きな駅です。人の多さに少し戸惑いながら、立ち食い蕎麦を食べて、12時40分の久渡寺行きバスに乗りました。久渡寺は年に一度一般公開される円山応挙の幽霊画が安置されているお寺です。またオシラサマという民間信仰でも有名です。オシラサマの元は少女と馬の悲恋物語です。馬と少女が契りを結び、少女の父親が怒って桑の木の下に吊り下げて殺し、馬の首をはねたところ、馬の首に取りすがる少女と共に天に昇って行ったと言われています。桑の木で作った馬と女性をかたどった一対の棒に、オセンダクという布を何枚もかぶせたものをご神体としています。久渡寺では、毎年5月16日に行っている大祭で「オシラあそばせ」といってオシラ様を遊ばせるそうです。
旅行の計画を立てていた時に、たまたま読んでいた遠野物語にオシラサマの話があり、画像を検索して見たオシラ様がとても可愛らしかったのと、家神様を遊ばせるというのがなんだか良いなぁと思い、せっかく弘前方面なら…という事で行先に選びました。残念ながら大祭の日ではないので本物は見れなかったけれど、かわいらしく飾り立てた馬の像がありました。

227段の石段を息が絶え絶えになりながら登り、お地蔵さんに手をあわせ、木漏れ日を浴びて無数に並ぶ観音様の美しさと怪しさにドキドキし、住職さんと少しお話をして、急な下り坂におびえながら石段を下ります。

バスの時間まで1時間くらいあったので、バス停側の「こどもの森」という売店で一休みです。売店には駄菓子や御朱印帳のほか、ラーメンやうどん、おでんのこんにゃくなども売られています。小腹がすいたので、こんにゃくとサイダーを買って、外のベンチに座ります。部活の練習でしょうか、時々ジャージを着た男子中学生たちが石段を駆け足で登っていくのが見えました。

バスで弘前駅に戻り、そこから空港行きのバスに乗り込みます。空港で、「名物!味噌カレー牛乳ラーメン」にするか迷いに迷って、ホタテカレーを食べました。20時25分の飛行機で青森とお別れし、楽しかった旅行も終わりです。姉戸川温泉等のまた行きたい場所や、知り合った人に教えてもらった所など、行ってみたい所がまた増えました。また500円玉貯金でお金をためて旅に出ようと思います。