009:☆青森旅日記3日目~猫と梅沢温泉~byひなこ(39歳)

7時ごろ起床して、部屋についているお風呂で体を洗ってから、チェックアウト前に館内を探検したところ、新館に宿泊する人や日帰りのお客さん用の大浴場がありました。中は広くて明るいけど無人。早朝に来ているだろう常連さんたちが帰った後の様子でした。広いお風呂が貸し切り状態だ! これは入らなきゃ!と、木製の棚にきちんと並べられている脱衣かごに手を伸ばしたところ、昨日玄関先にいた猫が悠々と寝そべっているじゃないですか!!「ここの子だったのねぇ」と撫ぜると、「に゛ゃぁ~!」と抗議するような声で鳴いて、こちらをじろりと見上げてきます。もうひと撫ですると、じろりと見上げたまま折りたたんでいた前足をゆっくりと出して、無言で爪を出しました。「ごめんごめん」と服を脱ぎ髪をまとめると、浴室の入り口に貼ってある貼り紙が目に入りました。「入浴マナーを守りましょう。からだ、特に陰部とお尻はきれいに洗ってから入りましょう」。「他人に不快の思いさせぬよう、お尻はきれいに洗ってから入ってください」。「お客様からのお願いです。お尻などきれいに洗って入ってください」。お尻の注意が多いです。
昔の漫画のようなタッチで描かれた入浴をする女の人のイラストが色っぽいなと眺めていると、後ろで「にゃぁ~!」という鳴き声が。猫が棚から飛び降りてきて、足に体を擦り付けながら通りすぎます。一旦くるりとひとまわりすると、浴室の入り口にちょこんと座り、再び「みやぉ~」「みゃぉ~っ!」とこちらを見上げ、鳴いています。あらかわいい、と写真を撮っていると、ぐりぐりと体を擦り付け、体をくるんと一回転させて浴室の前で「みゃぉぉ~!」と鳴きます。どうやら浴室に入りたそうな様子です。「ダメだよ入ったら~」と言いつつ、さっと自分だけ浴室に入りました。


湯舟は長方形で真ん中で仕切られていて、奥側は熱いお湯、手前側はぬるめのお湯になっていました。加水をしているのか、熱い方の湯舟と比べて少し薄い色をしている手前の湯舟につかりながら入り口を見ると、猫は扉の前に座ってずっとこっちを見ています。浴室から出てからも、猫は「入れてくれぇ~」とばかりに頭をぐりぐりしてきたり、濡れている足をちろちろとなめたりと大忙しです。ひっきりなしに「にゃぁ~!にゃ~あ!」と鳴いています。服を着ると諦めたのか、再び棚の中に戻って寝始めました。じゃあねとひと撫でして大浴場を後にしました。

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チェックアウト時に、女将さんに「大浴場にいた猫はなんていうんですか?」と聞いてみると、「いやぁ~ね!あそこにいたの!?いろんな名前で呼ばれてるのよ~なんだっけぇ?猫の絵本の、ルドルフとなんとかってやつみたいに!」という事でした。元々は「ハナコ」といって女将さんのおじいさんが好きだった人の名前がついていたけれど、おじいさんが亡くなった後は、「チャペ(ここの地域の猫の呼び方)」「チビ」「ウリ坊」「にゃんにゃん」などと常連さんに呼ばれているそうです。「きっと自分は人間だと思ってるのよ!にゃあにゃあおしゃべりするし、常連さんが新聞を読んでたら、ひざの上で一緒になって見てるのよ~」と女将さんは可愛らしくけらけらと笑っていました。
今日は汽車には乗らずにここの付近をのんびりします。陸奥鶴田駅で一日(9時から5時まで)800円でレンタサイクルを借り、津軽富士見湖に向かって30分ほど自転車を走らせました。水田やリンゴ畑のすぐ横をぐんぐんと自転車を漕ぐのは気持ちがいいです。富士見湖パークで、鶴の舞橋という長い三連太鼓橋を渡ったり、丹頂鶴自然公園を見に行きました。岩木山がくっきりと映った富士見湖はキレイだったけれど、公園で飼育されている丹頂鶴は鶴居村の自由な丹頂たちと比べると、なんだかかわいそうでした。駅前に戻り、喫茶店でバナナトーストの昼食をとり、自転車で隣の駅である鶴泊駅というかわいい無人駅を見に行き、道の駅でお土産を買ったりしていると、あっという間に4時になりました。今夜は宿でのんびりしようと思い、早めに宿に向かいます。夕食にはまだ早い時間だし、宿付近には店がなさそうだったので駅前で買い出しです。駅近くの成田精肉店の店先で焼鳥を焼いていたので4本ほど買い、スーパーでおにぎりを買い、お菓子工房TATSUYAでバナナボードという丸ごとバナナのようなケーキを買いこみました。リンゴ畑や岩木山を眺めながら、陸奥鶴田駅から1時間くらい歩くと今夜の宿「梅沢温泉」に到着です。「梅沢温泉入口」と書かれた看板の下に「朝6時より夜9時まで。9時になれば消灯します。悪く思わないでください」と書かれていて、小さなおばあちゃんが草むしりをしていました。玄関のガラス戸を開けると、すぐ客室らしきふすまが二つあります。右側には浴室へ行く渡り廊下がみえますが、受付らしきところはどこにもありません。大きな声で「すみませぇ~ん!」と呼びかけても誰も出てきません。草むしりをしていたおばあちゃんに聞いてみようと考えていると、ふすまがそろそろと開き、30~40代後半くらいの女の人が出てきました。手にはコンビニのお弁当の容器を持っています。
「…すみません、宿泊の予約をしていたんですけれど…」と言うと、女の人は「え~まじか、まじか…」と繰り返し呟きながら「ちょっと待っててくださいね」とどこかに電話をかけ始めました。「宿泊の人が来てるんだけれど、ひとり、うん、うん…え~私はいいけど、彼女はそういうつもりはないと思う…。ええ?だから、この間使ったあの部屋私使うから…だから…ええ、ちょっと待って…宿のおばあちゃんが電話代わってって」
電話の向こうにいるのは、宿の人らしきおばあちゃんでした。名前を聞かれた所までは何とかわかりましたが、津軽弁が強すぎて何を言っているのかがさっぱり分かりません。辛うじて「Kさんと一緒に」という所だけが聞き取れたので、さっきの人と一緒に泊まって、という事だなと思い「はい、はい」と答えました。
どうやら宿のおばあちゃんは、Kさんが今日帰るものだと勘違いをしていたみたいです。2部屋あるうちの1部屋はカップルが泊っているのでKさんと一緒の部屋で泊ってね…という事みたいでした。
「荷物は適当な所において、部屋は好きなように使ってね…。あっ、布団はそこにあるやつ好きなのを使ってね」
ふすまを開けると、修学旅行で使うような5~6人楽に寝泊まりできるような広々とした部屋です。隣の部屋へ続くふすまの向こう側からは小さくテレビの音が聞こえます。ふすまの前に布団や布団カバー、タオルケットなどが無造作に積まれています。部屋の隅にはKさんのものと思われるボストンバックや、文庫本が大量に入ったリュックサック、衣類等が置かれていました。真ん中にあるちゃぶ台には作りかけのドライフルーツがありました。この人は何日ここにいるんだろう…。
「外で草むしりしているおばあちゃんがいたでしょ?その人も一緒に泊まる事になってるから」
まさかのトリプルブッキング! 予想外の事態に頭がついていかないけれど、とりあえずお風呂に行くことにします。渡り廊下を越えて女湯のドアを開けると、湯銭を入れる小さな箱に、名前の書かれた紙と100円玉が入っています。どうやら番台はなくて、入浴した人は自分の名前とお金を箱に入れているようでした。浴室は狭く、蛇口が5つ。桶はあるけれどイスは無く、タイルの床に直接座って体を洗うようになっていました。真四角の湯舟の周りに常連さんらしきおばあちゃん4人が思い思いに湯舟に入ったり、湯舟の横に寝ころんでいます。
とりあえず空いている蛇口の前に座って体を洗っていると、誰かが湯舟に入ったのか、ざざーっと溢れたお湯が流れてきました。
「あつっ!!あつい~!!!」
昨日とりせいのお兄さんが「梅沢温泉に行くの?あそこは熱いよぉ!」と言っていたのを思い出しました。今回の旅行で一番熱いお湯です。体を洗い終え、そろりそろりとお湯に体を沈めてみますが、熱くて入っていられません。常連さんの真似をして湯舟の縁に寝ころんでみると、流れてくる熱いお湯がだんだんと心地よくなってきます。お風呂から出る頃には背中からお尻にかけて真っ赤になっていました。
お風呂から上がると、Kさんは明日4時に起きて仕事に行くと言って早々と布団を敷いていました。焼鳥や道の駅で安く売っていたカシスやすぐり、チューハイを出してプチ宴会です。Kさんは帯広の畜産大学を出て、数年前に北海道から東北に移ってきたそうです。今は求職中で、梅沢温泉に泊まりながら果樹園か何かの短期の仕事に行っているようでした。温泉の話や、森の中の果樹園、宮城県のキツネ村の話をしながら、だんだんと夜は更けてきましたが、なかなか同室のおばあちゃんが来ません。
「そういえば、おばあちゃんは?」と聞くと「う~ん、暑いからお風呂場に泊まるって」…お風呂場!?お風呂場で寝るの!? 9時を過ぎてもお風呂にはまだ入れるという事でお風呂場に行ってみると、脱衣場にタオルケットを敷いておばあちゃんが寝転がっていました。部屋でお布団で寝ないかと言うと「あっついからここで寝るの~」とにこにこしていました。
部屋に戻ると、すやすやとKさんは寝ています。Kさんの寝息と、隣の部屋から聞こえるテレビの音や生活音を聞きながら、本を読んでいたらいつの間にか寝てしまいました。
3日目はここまでです。今のところエッチな事件はなかったけど、このあと、隣の部屋のカップルが・・・!! ついにエッチな事件が待ち受けているのでした!!