049:定山渓の某温泉ホテルでの悲劇by工藤正樹

みなさんこんにちは。別枠で漫画を担当させて頂いている工藤正樹です。新型コロナの影響で旅に出たくてもなかなか気軽に出られない状態がつづいておりましたが、ようやく観光業界も活性化させようとするムードに変わってきましたね。
不思議なもんで自由な時はなんとも思わないのですが、制限されると途端に息苦しくなって遠くへ行きたい欲求と温泉に浸かりたい欲求が強くなっていた気がします。ましてや雪融けが終わり、道産子にとっては待ちに待った春ですからね。余計に厳しい時期でした。
そんな中、ちょっと気軽に旅気分でも味わってみようと思い、久しぶりに定山渓温泉へ行ってみる事にしました。特別給付金も頂き、地元札幌も元気になって欲しいとの思いも少しばかりあったかもしれません。土曜日でしたが、アジア圏の観光客もまだ戻っては来ていないだろうし、コロナの脅威も終わっていなかったので、そこそこ空いているんじゃないかと踏んで定山渓の某温泉ホテルを予約して向かいました。
甘かったですね。15時ちょい過ぎ、受付は長蛇の列となっておりました。検温なども実施されており、40分ぐらい待たされたでしょうか。ようやくチェックインとなりました。その時に言われたのが「今日は混んでいるので18時45分からの夕食でお願いします」と言う事でした。夜中にお腹が空いてもがき苦しむよりは少しばかり遅い方が良いと思い、渡されたメモを受け取り、自分の部屋へと向かいました。
このリポートの本題はここからなんです。部屋に着き、何気なく夕食の時間(メモ)を見ると「18時45分開始~20時15分終了」となっておりました。つまり正味90分で食べ終えて下さいという事です。まあ90分あれば十分なんですが、でも浴衣を着ながらゆっくりと食事をしたいじゃないですか。食べ放題のチェーン店じゃあるまいし、窮屈に時間を気にしながら食べ放題のバイキングをしなくちゃならないと思うとなんとなく気分が落ち込みました。
そんなわけで18時35分頃にバイキング会場へ行きました。「10分早い」と言われればその場で待ってもいいかなと思っておりましたが、快く対応して貰いました。その時に、若い男性の従業員に聞いたんですね、「ここに書いてある通り、終了は20時15分までなんですか?」と。食事中の気持ちにゆとりが欲しかったんです。「そう書いてますが、実際はもっとゆっくりしていてもいいですよ。あくまで目安ですから」、そんな言葉を期待してました。しかし、返って来たのはこんな返答です。
「終了は20時15分ですが、料理を引き下げるのは19時30分です」
「ええええええっ~!」と、声が出ました。若い従業員は「そうなんですよ。すみません」といった苦笑いを浮かべてましたが、こっちはそれどころじゃないですよ。要するにあなたの食事時間は全部で45分ですと言われたわけです。想定していた時間の半分に設定され、料理がどんどんと引き下げられる光景を想像しゾッとしました。
広い会場で自分の席に戻るのもそれなりの時間が掛かります。人数が多いので盛り付け待ちも当然あります。40分前には多くのお客さんが取りまくっているわけですから空っぽの大皿も少なくありません。そうこうしている間にも時間は刻一刻と過ぎて行きます。心なしか早歩きになっている自分に気づき「大丈夫、落ち着け」と言い聞かせたのを憶えてます。気のせいか客同士も料理の奪い合いで殺伐としているようにも見えました。3密どころかバトルロイヤルの世界です。席に着き、スマホで時間を確認してから、ようやく食べ始めました。
それからも他のお客さんが次々とやって来て、中には席が空かず待っている家族連れも何人かおりました。土曜日、相当混んでいたようです。会場の座席数を宿泊者数が上回れば時間の調整で対応するしかない。しかし、それならば終わりの時間を延ばすのが当然でしょう。半分の客は18時から優雅に食事をしているわけで、この格差は納得し難いものがある。ましてやこちらは聞かなきゃいいのにオーダーストップの時間まで知ってしまったわけですから、後から来る他のお客さんの事も心配になるわけです。遅い家族で19時20分頃にニコニコしながらやって来ていて、その光景は見てられなかったですね。結局、もう少し延長になったようですが、他人事ながら心配が止まりませんでした。
まあ、そんな夕食バイキング事件でした。焼きたてのステーキや揚げたての天ぷらは極上とまでは言わないまでも美味しかったし、シャリの比率は大きいですがお寿司や刺身が食べ放題っていうのもたまにはいいもんです。しかし、ドキドキしながら終始時間を気にして、急いで掻っ込まなくてはならない状況に、食事の時間を設定された軍隊や刑務所はこんな感じなのかなと思ったりもしてました。
今回も一人旅だったわけで、誰かがいれば笑い話にできたかもしれませんが、その時はまったくミジメなもんですよ。ちょっとした旅気分を味わいたくてぶらりと足を運んだのですが、軽い災難に巻き込まれた気分です。ただ、こうしてネタとして書かせて貰っている今は、面白エピソードとしていい思い出になっております。何も事件が起きない旅も味気ないものですから、旅のトラブルは時間が経てばいつでも楽しい思い出になっているような気がします。