044:隔り

そうなのだ! 突然そうなのだで始まるのだけれど、そういうことなのだ!
ぼくは雪がない時は主に美瑛の山の方のトタン小屋に住んでいるのだけれど、一歩外に出ると吹き抜ける風と川の音で実に気持ちがいい。近くには住宅街も街路樹も自動販売機もないけれど、なんの隔たりもない。
というのも、1年半前の冬の生活を思い出してしまったからだ。その冬、ぼくが過ごしたところもけっこうな田舎で、人口一万人ぐらいの十勝清水という町の大きな砂糖工場(なにせ日本で消費される砂糖の3%をつくっている)の古い寮に住んでいたんだけど、ある日、そこの寮と道路の境にフェンスを張る工事が始まったのである。
柵とか仕切りとか壁というものができて、あ~自由だ、人生に光が射した、生き辛かった昨日までがウソみたいだよ、と顔を輝かせている人を見たことがあるだろうか?
そういったものを作ることで、人あるいは集団は何かを拒絶しますよ、わたしに関わらないでね、という冷たい心を具現化し、それが巡り巡って自らの首を絞めているんだな、ということにぼくは今日気付いてしまった。町名の頭に「十勝」と冠をつけないと色々不都合のある小さな町も複雑化してきているみたいで少し恐くなった。
ぼくは柵も壁も仕切りも必要としない、自然で、自由で、誰も奪ったり侵略しようとも考えつかないような素朴な場所で、心穏やかに暮らしていきたい。生命の維持を金と他社に依存しきっているクセに人権だとか個人の幸福なんて真剣な顔で訴えている人たちを見ると、バカバカしくてかわいた笑いすら出てこない。
そういう人種が壁を作り柵を立て、未来のためにと言ってルールを作って生き辛い世の中を盛り立てていくんだ。そんなことを思ってしまった。
そういう光景を目にする度にぼくは悲しい気持ちになる。