●9月のある日、ぼくらは知床へと一泊の旅行へ旅立った。どうして知床なのかはあまり覚えていないけれど、9月に入ったら一泊して日帰りでは回れないようなところへ行きたいなぁ、という声がどこからともなく聞こえてきて、どこからともなくいいですねいいですねと、それに答える声が上がったからだった。
●我々若干名はバイクに乗ってどこかへ行こう、出来れば風になろう。という目的のもと各々都合の良さそうな日を申し合わせてはバイクに乗りどこかへ行くということをしている集団である。特にこれといった目的意識や行動規範というものもなく、とりあえず海が見たいね、とか峠もいいねとかいうことを言ってあちこちに行ってみてはなんとなく美味そうな店でメシを食ってみたり、走行中きれいな景色に出会ってはそれぞれで感動しつつ、あそこ景色良かったねとか夕日がキレイだった、とか、でも暑かったね、コメの炊き具合がね、などとあまり実のないことをぼやいたり振り返ってみたりすることもあろうか、ということを楽しんでいる集団なのである。
●まぁそんなわけで畑仕事も一段落!というのにはまだまだ程遠い9月ではありますが、日にちを決めてえいやっと知床へと旅立ったわけです。あまり前もって厳格にルートやプランを決めると言うことは普段しないぼくたちだけど、この日は初めての泊まりということで、宿は決めてあった。最年長ながらにして今年免許を取ったばかりのややメタボ過剰というバイクビギナーのおじさん、通称じょーむが網走湖の近くの温泉旅館を予約してくれていたので、一日目はそこが目的地だ。
●仕事をそれぞれえいやっと片付けとある待ち合わせ場所へと集合する。具体的に言うと国道39号線当麻町のローソンである。あまり具体的なことの記述がなかったので無理やり具体的に集合場所を書いてみたのだけれど、特に深い意味はないのだ。そして年をとってくるとわかるぅ、となると思うのだけれど、こういった遊びの集合場所にイェイイェイ、今日は楽しむぜい!というテンションで乗り込んでいく、というのはなんとなく恥ずかしいのである。そこでぼくらは、内心もうたまんない!ワクワクが止まんない!という散歩に行く犬のような気持ちを隠して、おー来たな、とかあーお待たせしちゃいまして、なんてことを言いつつまずはコーヒーでも飲んでどの道で行くか決めようか、というような実に落ち着いたお利口さんのような態度で心の高ぶりを隠したのだった。
●この日はあいにく雨交じり風ぬるく空どんより。さらば夏こんにちは秋。という天気だったけど、さぁ行くかとバイクに跨りアクセルをちょちょっとひねった瞬間に我々は即座に野に放たれた犬のようにとにかくヨロコビを全身で感じて走りだしたのであった。そして時は飛びあっという間に目的地の網走湖すぐ近くの温泉旅館に着いた。道中は雨雲との追いかけっこと言う感じでひやひやしながらも濡れることなく無事に辿り着いた。途中通った町で中心部の国道を封鎖して行灯祭りをしていたので、のろのろと迂回路を走りながら、妙に旅情が沸き立ってくるのを感じた。
●実際には走行距離約170キロというところなのだが、日もとっぷりと暮れていたこともあってか、あぁ、ずいぶん遠くに来たもんだ、などと遠い目をしつつお互いを労いあうという「到着の儀」的な事をしながら知床旅行記その1は終わり次週へと続くのだ。〈2019年9月26日21:03記〉
農業見習い中
白木哲朗のエッセイ百番勝負