022:丘でも自然でもなく

 

世の中には素性の知れない人たちがたくさんいる。というよりは、自分の小さな生活範囲と交友関係の外にいる人のことというのはさっぱりわからない。世の中ほとんどが知らない人で出来上がっていて、そのすみっこの奥のほうでなんとなく居心地を確かめながら、きょろきょろうろうろとしているのが遠くから見た自分の人生なのかもしれない。
今ぼくが住んでいる町が丁度人口1万人ぐらいで、世界には大体70億人の人がいるらしい。らしいというのは自分で確かめたわけじゃないからだけど、本当に確かめた人はいるんだろうか? 小さな町の人の数ならまだしも、世界中の人の数は全部で70億人です! と言われても、あっそうだったのか! そうかそうか! 70億人もの人がこの地球には住んでいるのですね! 素晴らしい! と納得できる人と言うのは70億の内何人ぐらいいるのだろうか。少なくともぼくはかなり猜疑的な視線を地球の人口統計発表に向けている。
まぁそれはいいとして、全然関係ないのだけれど、自分の住んでいる町の人口がちょうど1万人ぐらいというのはなんとなくいいですね。なにがいいかというと、ニュースなんかでジャンル問わず何万人という単位が出てくるでしょう。その度にどれくらいだと思うことなく、あぁ、美瑛町何個分の人が嵐のコンサートを見に札幌へ集まってきてるのね、とか、中年のひきこもりが30万人いるとかいうニュースには漠然と多いなぁと思うだけでなく、美瑛町30個分の中年が社会に出ず引きこもっているのか、とリアリティをより感じることができますね。
マラソン大会に市民ランナー3万人集まる。という見出しに対しても、この町の人口の3倍の人が走るためだけに休みの日にそこに集まって汗をかいて疲れたのか、と思うとコトの凄さがよくわかる。個人的にはスポーツの試合なんか興味のない人達になんとか凄さを知ってもらおうと、この歴史的伝統的刺激的お祭り的決勝戦にはなんと10万人もの人々が集まってきています! これはすごいことです! とにかくすごい盛り上がりです! これはちょっともう目が離せません! あっ、また会場前で大きな歓声が上がりました! 試合前だというのに! 集まってきた人のテンションだけでなく色々と上がっています! チームを盛り立てようとあちこちで旗が振られ凧があがっています。ちょうどあちらではたこ焼きが焼きあがったそうです! ちょっと見てみましょう! という臨場感に満ちてはいるけれどいまいちピンとこないアナウンス中継というのがあるでしょう。
そういう時はあっ、美瑛町何個分の人が同じ試合を見に集まってるんだ、と思ったら、凄いことだな、盛り上がり具合が良くわかるぞ! 大変なことだ! と世界中のニュースをより身近に感じられるようになりました。ニュースや統計で言う何万人という単位に、どれくらいかピンとこないなぁ、と思っている人がいたら一度美瑛に来て適当に町の大きさや田舎の集落なんかを見てみるといいです。ここにいる住民がちょうど1万人なのか、つまりあの町何個分の人が今日集まっているんだな、と新しいものさしが出来ますね。どこで役に立つかはわかりませんが。
ちなみに美瑛町の面積は東京23区と大体同じです。東京と言わず大きな街に住む人は、ここに人口1万人かぁ、と驚くでしょう。色んなものさしがあると色々役立ったり楽しいことが増えそうです。よく広さの単位で、東京ドーム何個分というのがあるけれど、あれにピンときている人と言うのはどれくらいいるんだろうか?
広さの単位はわかりづらい東京ドームや札幌ドーム何個分にどうぞどうぞと譲るとして、人数の単位は美瑛町何個分の人が集まってます!というようなことが広まっていかないだろうか…と思うのである。自分の住む町の魅力は?と聞かれてもすぐここがよいところです!と言える人は少ないだろう。それにぼくはややひねくれ気味なので、景色がいいとか、歴史があるとか、偉人の生まれ故郷です、なんてありふれた文句を見る度にとりあえず「ケッ、教科書みたいだぜ」と思ってしまう。
なにかを確かめたくて人は旅に出たり観光に行くとすると、ぼくはこの町のいいところも悪いところも自分の目で見て知っている。大きな声でここがいいところでーす!と言うようなところも見てきたし、実際に来た人がこんなところかよ、とがっかりしたことに、実際がっかりしたこともある。それでも観光に来る人はどんどん増えている。ひねくれた視線として、自然や景色を見に大きな町から来た人に、ただ来て帰って欲しくないのだ。しかし人口ちょうど1万人!というのは売り文句として文句のつけようがなくていいなぁ、と思っている。わはははは。<2019年7月4日22:29記>