●冬仕事の第一幕、十勝清水製糖編がめでたく終了した。これから第二幕、八雲町海の男編へと移行することになるのだけれど、どんな暮らしになるのかは全く想像できないでいる。
●十勝での仕事が2月27日で終わり、3月1日から八雲町である。寮生活で使っていた布団や着替えや自炊道具をそのままフィットくんに積み込んでせかせかと移動する。
●十勝に来た時の愛車はヴィッツくんであったが、故障してしまい大枚はたいて修理して、ガソリン満タンついでにビビっていたワイパーも前後両とっかえして、さぁ行くぞ!というところで不幸な事故で廃車になってしまった。
●なんだか、車を修理して直してまた壊して新しくして、と、なんのために出稼ぎにきたのかわからない状況になっている。工場のおっちゃんたちからは「事故男」とか「趣味=車にお金を払う人」という不名誉でおもしろくないあだ名をつけられてしまった。
●八雲町には「とりあえず詳しいことは今言ってもしゃーないから来てからねぇ!」と詳細不明なるも、メシと風呂の心配なし、小舟に乗るから落ちないようにねぇ。というシンプルな説明があっただけで、こちらとしてもそれだけわかっていればなんとでもなるかぁ!という意気込みで行き当たりばったり的にとにかく行ってみることにしている。
●振り返れば実にいろいろなことがあった3ヵ月半であったけれど、終わりは実にあっけないものだった。解散式なる茶番的な行事に出席して、お土産に砂糖を段ボール一箱とホクレン米5㎏をもらい荷物をフィットくんに積み込んで旅立った。
●おこぼれもらいもの的人生を歩んでいるぼくだけど、寮を出るときにも随分色んな物を貰った。前日に慰労会なるものがあり、二次会をぼくの部屋でおっちゃんら数名としていたので、持ち寄った酒や乾きものの残りがまずひとつ。
●朝起きて散々たる部屋を見て前夜のことを思い出したのだ。朝起きたのも「おーい起きろう!」とおっちゃんの襲撃にあったからで、これやるからよ、と言いつつ冷蔵庫へなにやら色々詰めていく姿を寝ぼけ眼で見ていた。テキは寝込みを襲ってきたので抵抗及び選別をするスキもなく、餞別という名の持て余した食料品や菓子類をみっちりともらってしまった。おかげで退寮間際に半額の刺身ののこりと総菜焼き鳥を腹に詰め込み、アイスをかじりながら出発することになった。
●それから入れ代わり立ち代わりおっちゃんらの襲撃に遭い、使いさしのラップ、銀紙、食器洗剤、買い置きの缶詰、割りばし、もう使わないからと小汚い靴、カセットコンロのガス、エロ漫画雑誌、等々を餞別としてもらった。
●あのよう、おっちゃんたちよう、捨てるのはもったいないけど持って帰るほどのものじゃないものをたんまりと持ってきてよう、おれは処分屋じゃないんだぞう!と言いたくもなったが、ニコニコと屈託なく笑うおっちゃんらを見ているとなんにも言えなかった。普段から缶ビールやサイズ違いの服や靴下をもらって結構ありがたく使わせてもらっていたので、文句を言うのも筋違いかなと思った。
●そんな訳で来る時よりも幾分増えた荷物を詰め込んだフィットくんと、アイスをかじりながら十勝清水をあとにしたのでした。
●いいことばかりではもちろんなかったけれど、気持ちとしては陽気に出発できたので、今はよかったよかったと思っている。
●体当たり突撃出稼ぎ旅はまだ続くけど、八雲町でもなんか楽しいことがあればいいなぁと期待に胸と鼻の穴を膨らませつつ南へと向かうのだった。
<2019年2月28日執筆>
農業見習い中
白木哲朗のエッセイ百番勝負