●青森を一人旅してきました。目的のひとつは恐山です。そこから、2〜3泊くらいを目安に計画を立てました。絶対行きたい場所は上北郡にある季沢温泉と姉戸川温泉です。風間浦村や酸ヶ湯温泉とかも行きたいな……など色々考えた結果、八戸から恐山に行き、上北町で一泊、陸奥鶴田で2泊して飛行機で帰るスケジュールにしました。
【1日目】
●仕事を午前中で終わらせ、苫小牧を21時15分に出るフェリーで出発です。23時59分発の便もありましたが、今回は朝一番のバスで恐山に向かいたかったので、朝早く到着する便を選びました。
●今回乗るフェリー「シルバープリンセス」は新しく、広くてキレイでした。トイレもウォシュレットが付いています。嬉しかったのはコンセントが多かった事です。同じ苫小牧発のフェリー「シルバーエイト」や「シルバークイーン」は大部屋に2箇所、後はロビーのカウンター席に数カ所のみですが、なんとシルバープリンセスはオートレストランのボックス席に2つずつコンセントがあります。おかげで携帯電話や携帯バッテリーの充電に困る事はありませんでした。
●部屋は2等室のレディースルームです。本当は個室になっている2等寝台に乗ってみたかったけれど、私が予約をした時にはいっぱいでした。2等室の乗客は私を入れて6人。おばあちゃんと中学生くらいの孫、女性2人旅がひと組と、あとは私と同じ一人旅ガールでした。出港後、おばあちゃんは早々と電気を消して寝てしまったので、2階ロビーのリクライニングチェアに座って眠くなるまで本を読んで過ごし、23時には毛布にくるまって眠りにつきました。
●八戸港に着いたのは早朝の4時45分。心配していた船酔いもほとんどなく、デッキからみた海は青くて綺麗でした。
●5時40分発のシャトルバスを待って、八戸駅に向かいます。バスの待ち時間が1時間ほどあるので、陸奥湊駅まで歩いて朝市で朝ごはんを食べようか、青森は早朝から営業している銭湯が多いのでひとっ風呂浴びようかとかなり迷いましたが、陸奥湊駅にはみどりの窓口がなく、青森ホリデーパスが買えないのて、大人しくバスを待つことにしました。
●青森ホリデーパスは2470円で1日フリーエリア内の指定区間(JRの久慈〜八戸、野辺地〜大湊、青森〜三厩、青森〜弘前、川部〜五所川原、青い森鉄道)の普通列車乗り放題の切符です。八戸駅から恐山行きのバスが出ている下北駅までが2480円、さらに帰りも汽車に乗るので、ホリデーパスを買ったほうが断然お得です。
●八戸駅で軽く朝食をとり、青い森鉄道の7時15分発の汽車で出発です。八戸から野辺地まで45分、野辺地から下北駅まで56分の移動です。汽車は水田の横を通ります。カラスが水を飲んでいるのが見えました。野辺地付近のトンネルを抜けると、前の日に降っていた雨で空気が湿っているせいか、緑が深い色合いだったのが印象的でした。
●下北駅に着いたのは9時ちょうど。コインロッカーにスーツケースを預け、9時10分発の恐山線のバスに乗り込みます。バスに揺られながら、迷っている事がひとつありました。冷水でバスを降りて歩くかどうかです。3年前にも一度恐山に行きましたが、冷水で降りて水を飲み、恐山まで歩いたのですが、道のりは思ったよりも長く、2時間くらい舗装された上り坂を歩きました。ヒールがついたサンダルを履いていたので、到着する頃には足はボロボロでした。今回は存分に探索できるようにとスニーカーを履いていたし、さんざん歩いた後に入る熱い温泉も魅力的でしたが、恐山もじっくりと探索したいので、今回は太鼓橋で降りようと思っていると、冷水に着いた時に「どうぞ、お水を飲みに降りていいですよ〜」と運転手さんが少しの間、停車してくれました。
●バスを降りると、硫黄の匂いに包まれた雨の余韻が残る空気はひんやりと気持ちが良いです。「1杯飲めば10年、2杯飲めば20年、3杯飲めば死ぬまで若返る」という冷水を飲み、近くのお地蔵さんに手を合わせて、再びバスに乗り込みます。バスは太鼓橋では止まらずに恐山で停車しました。バスを降り太鼓橋まで引き返すと、老朽化のため通行止めになっていました。この橋は、悪人には針の山に見え、渡ろうとしても渡れないと言われています。前回来た時は、渡れなかったらどうしよう…!とドキドキして渡った場所だったので少し残念だったけど、青白い正津川にかかる赤い欄干の橋は綺麗でした。傍に佇んでいる脱衣婆と懸衣翁を眺め、いよいよ恐山です。
●500円の参拝料を払い「田園に死す」のタイトルバックになった門をくぐると、すぐそばに湯小屋があります。恐山には宿坊の中の浴場の他に「冷抜の湯」「古滝の湯」「薬師の湯」「愛染の湯」という小さな湯小屋があります。まずは身を清めようと小屋に入るとすぐに脱衣場と湯舟がありました。湯舟は長方形で、真ん中が仕切られていて、仕切りからちょろちょろとお湯が出ています。白いお湯で、濃い硫黄の匂いが立ち込めていました。前回入った時はとても熱くて、すぐ全身が赤くなりましたが、前日からの雨のせいかすこし熱めくらいの温度でした。
●体を温めた後はお参りをして地獄めぐりです。無間地獄、延命地蔵尊、地獄谷、賽の河原…と散策します。順路はある程度決められているようですが、広く道があってないような場所も多いので正しい順路なのか分からなくなりました。観光客とお参りに来ている地元の人で思ったよりも人はいましたが、ときどきふと周りに人がいなくなる瞬間があります。あちこちにあるお地蔵さんは、古く崩れているものもあり、すっかり黒く変色した小銭や参拝者らしき名前が書かれた石があります。静寂の中で鳥の声と風車のからからと回る音だけが響きます。心許ない気持ちで点在するお地蔵さんを眺めていました。
●30分ほどかけて散策すると、極楽浜に出ます。見渡す限りの青く透き通った湖です。前回は霧雨が降っていたので、空も湖も白く霞み、水面には糸ミミズが狂ったように蠢いていました。湖のほとりに供えてあった花と風車の赤と、お供え物に群がる烏の黒だけが鮮やかで、この世ではないような景色でしたが、今回は青い空が湖に綺麗に反射して、まさに極楽のようでした。湖のほとりをのんびり歩き、バスの時間も迫ってきたので後ろ髪を引かれる思いで極楽浜を後にし、胎内めぐりを通って正門に戻るともう一度お湯に浸かり、「蓮華庵」という食事処でざるラーメンを食べて、バスで下北駅へと戻ります。
●恐山は嬉しかったことと残念だった事がそれぞれありました。嬉しかった事は晴れた極楽浜が見れたこと。残念だったことは太鼓橋が通行止だった事とババヘラのおばあちゃんがいなくなっていたこと、携帯が通じるようになった事でした。携帯電話が使えるのは便利だけれど、別世界感がちょっと薄れた気がしました。
●下北駅から汽車に乗り、15時25分に上北町駅に到着です。上北町付近は安い温泉銭湯や民宿が点在しています。今回の宿は玉勝温泉。温泉銭湯の向かいに別館として宿があります。宿泊代は素泊まり一泊2,500円。部屋には小さなテレビとテーブルが置かれ、布団を敷いたらいっぱいになる広さです。食事は出ませんが、台所で自炊ができます。
●ここのちょっと好きな所は温泉蛇口です。別館のすぐ隣にある薬局の前の地面から唐突に蛇口が突き出ています。黄色みがかった温泉がちょろちょろと出ており、無造作に置かれた洗面器に溜まるがままになっています。特に誰かが汲みにくるという事もなく、なんとなくあるのが良いなと思いました。
●銭湯の番台に声をかけて名前を言って、掛からないのであまり意味のない鍵を受け取り荷物を置いてお出かけです。まずは歩いて10分くらいの所にある「道の駅おがわら湖」です。ここでは小川原湖で採れたシジミやいちご煮やガニ汁の缶詰、すごく甘い鮎最中などのお土産や、地元の人が作った野菜やお惣菜が売られています。昼間は長テーブルの上に、ずらりとお惣菜や焼き餅、お赤飯を柔らかい煎餅で挟んだものがあるけれど、遅い時間のため品物はまばらでした。明日の朝食用に沼エビ入りの炊き込みご飯と牛蒡と人参の甘あげを買い、食事処で売っていたシジミソフトクリームを食べながら道の駅を後にしました。しじみソフトは少し黒みがかった白色で、かすかにシジミの風味が感じられました。
●夕食は宿の近くにある「味幸」という、去年の旅行のときに見つけた和食屋さん。普通のカツ丼や蕎麦などの食事もできるし、お酒のメニューも豊富です。お店に入ると賑やかな声がします。広い小上がりで、ジャージを着た女子中学生や保護者や先生らしき人達がわいわいと宴会をしていました。宴会で忙しいせいか、お店の人の姿が見えなかったので、カウンターでしばらくメニューを眺めます。何にしようか、思い切って小川原湖産の天然うな重2,625円にしようか…などと迷っていると「お待たせしてごめんね。観光ですか?…札幌の人?」と奥から店主が出てきました。小川原湖産の何かおススメはあるか尋ねると、独特のイントネーションで「沼の物なら、ウグイかサヨリか…フナもあるよ」という事なので、サヨリの飯鮨を注文すると、フナも少しつけてくれました。サヨリもフナも、さっぱりと美味しく嬉しくなりました。グラスでビールを飲み、追加で頼んだとろろ蕎麦を食べながら、ノンアルコールビールを開けた店主とおしゃべりしました。
●中学生たちは地元の中学校のテニス部で、試合の打ち上げをしていたようです。店主の3人の孫の話や、小牧温泉や、近くの赤いお湯が出る温泉銭湯の話をしていると、時間があっという間に過ぎ、ビールも少し回ってきました。宿に戻りとりあえず布団に倒れこむと、すぐに早起きと昼間の疲れがどっと襲ってきて、そのまま眠り込んでしまいました。
●1日目はここまです。2日目には、いよいよ、ちょっぴりエッチな事件が待ち受けているのでした。