●30年前、養老牛温泉には宿が4軒あったんよ。寅さんで一躍有名になった藤や旅館、ハスキー犬の大と一が出迎えてくれたホテル大一、背むしのおじいちゃんが迎えてくれた養老牛荘、赤い欄干の渡り廊下が素敵な・・・あれ、なんだっけ、宿名失念しちゃった。という4軒があって、ホテル大一は河畔の混浴露天風呂とシマフクロウの宿として人気を博して、さらにスリッパのいらない和風旅館として完全改装して、宿名も会社名も湯宿だいいちに改称。文字通り養老牛温泉で一番大きな湯宿になったのです。というところまではみんなも知っての通りね。
●一方、家族経営の養老牛荘も負けちゃいられないってんで、改装して、こちらは大一と逆に宿名をホテル養老牛に改称。名物のミルク鍋と小山家のアットホームなもてなしで背むしのおじいちゃんのあとも頑張っていたんだけど、ここ1、2年、ダンピングサイトで安売りしたり、暖房代をふっかけたり、あれれ、何バカなことをやっているんだろうと思って見ていたら、結局力尽きて、今年になって廃業を決意。3月に湯宿だいいちの長谷川さんが買ってくれることになったので、今月いっぱいで90年の歴史に幕を下ろすことになったのでした。
●湯宿だいいちとしても、別に欲しくて欲しくて買ったわけじゃないだろうから、今後どうするのか心配だけど(何しろ、消防法の関係で肝心の大浴場も露天風呂も現状のまま使うことは不可能だからね)、昔、長谷川さんが「あざらしさん、旅の本当の原点は自炊旅だと思うんですよ。現地で食料を調達して、皆でわけあい、質素でも思い出に残る旅をする時代に戻れないものでしょうか」と言っていたことをふと思い出したんだ。きっと、湯宿だいいち別館の自炊棟として使うことになるんじゃないかな。あえて、長谷川さんに確認しないで、ここはあざらしの憶測のまま載せるとするよ。
●そうそう。宿名を失念していた・・・あ、思いだした。花山荘だ。その花山荘は玄関の前に「自衛隊大歓迎」という巨大な看板を出した辺りから経営がおかしくなって、炭鉱遺産の普及に尽力している元たくぎん総研の吉岡くんが「あざらしさん、ぼくは人生で激怒したことってほとんどないんですけど、花山荘の食事と対応のひどさに思わず激怒してしまいました」と報告してくれて間もなくつぶれたのでした。
●そんなわけで、30年前4軒あった養老牛温泉は来月から2軒になるのです。実はおいら、この記事を書いている前日(5月21日)、ホテル養老牛の最後の温泉に浸かることだけを目的に何時間も車を走らせて行ったんだけど(スタッフのマサーシくんと違って、おいらはまだ道東道や樹海道路ができる前から釧路や知床は普通に日帰りなのだよ)、なくなるところはなくなるべくして淘汰されるということを肌で感じて帰ってきたんだ。「道新や釧路新聞に閉館の記事が載っても特に反響がなかったし、できれば記事にしないでほしい」って、おいおい、先代が築き上げた90年の歴史を踏みにじるようなこと言うなよ。つうか、だめじゃん。全然惜しまれてないぞ。≪かつて北海道にこんな素晴らしい温泉宿があったけど、いつ、どんな理由で地図から消えてしまいました≫という記録を残すことがおれの仕事なんだ。きっちりと仕事させてもらうかんね。
あざらしからの
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