007:火山と温泉の話その一byスーさん

みなさん、はじめまして。とある地学の研究所で“地熱や温泉”の仕事をしているスーさんと呼ばれているものです。
「コラムリレー始めるから、原稿よろしく!」とお願いされたものの、論文や報告書を書くことはあっても、気の利いた文章などを書いたことは、これっぽっちもありません。さて、何を書いたら良かろうかと考えた末、もともと“へなちょこ火山隊”がきっかけでスタッフとなったので、火山に関連したコラムにしました。少しの時間だけお付き合いいただければと思います。
こういう仕事をしていると「スーさんのおすすめの温泉ってどこですか?」とよく聞かれます。そんな時はいつも「温泉はラーメン屋みたいなものだから、おすすめの温泉がその人に合うかどうかはわからないよ」と答えています。
ただ、鶏ガラだしのあっさりした醤油ラーメン(俗に言う昔風ラーメン)は、万人とは言わなくても多くの人が普通に食べられるラーメンではないでしょうか?これに相当する温泉が、単純泉(単純温泉)だと私は思います。成分が少ないために肌への刺激も少なく、入る人を選ばないオールラウンダー的な温泉、それが単純泉です。
前置きが長くなってしまいました。今回は逆にクセのある温泉についてのお話です。火山の周りに温泉があることは、温泉好きの方ではなくても何となく知っていると思います。また、“硫黄泉”や“酸性泉”といった酸性(pHが1~3)の泉質が多いことも、併せてご存じだと思います。そんな酸性の温泉はどうやってできるのでしょう?
活火山からは高温の火山ガスが噴出しています。その成分のほとんどは水蒸気ですが、水蒸気以外の化学成分の中に、二酸化硫黄(SO2)や硫化水素(H2S)などの硫黄を含むものがあり、それが酸性泉の出発物質になっています。

反応1)SO2 + H2O → H2SO3
 →二酸化硫黄が水に溶けて亜硫酸(H2SO3)ができる反応
反応2)3H2SO3 → 2H2SO4 + S + H2O
 →亜硫酸から硫酸(H2SO4)と硫黄と水ができる反応

実際の反応は活動域周辺の地下水で起こっていると考えられています。厳密に書くと、上記の反応は火山によって多少異なりますし、実際には反応2からさらに反応が進みますが、ここでは割愛します。反応2でできた硫酸は、周辺の岩石と反応して、鉄などの金属を溶かし込み、温泉の成分として付加していきます。
このように火山ガスからできた酸性泉や硫黄泉は、成分を付加していくうちに、鉄泉、緑礬泉(りょくばんせん)、明礬泉(みょうばんせん)などに変化し、ひとつの温泉地に複数の泉質がある状態となります。北海道を代表する登別温泉に色々な泉質があるのは、このような生成メカニズムがあるからなのです。
次回は北海道にある、いくつかの酸性温泉について、もう少し掘り下げて紹介したいと思います。