●前夜は双葉社のS々木氏と野毛&吉田町を飲み歩いたし、この日は日本旅行作家協会の集まりが日比谷のプレスセンターであるので、昼はおとなしくしていようとも思ったけど、ついつい神田へと足が向かってしまう。所属する協会に関係なく、二つ目が技を磨くための小さな寄席「連雀亭」があるからだ。
●とんとんと階段を上がると受付にいるのは本日の出演者のうちの一人だ。いきなり噺家と会話ができることに、まず感激する。500円也を支払うと何も渡されない。鈴本などの寄席では番組表を手渡されるし、落語会では大量のフライヤーやアンケート用紙を手渡されるけど、連雀亭は払うだけ。それもいい。
●消毒や連絡先の記入を終えて会場に足を踏み入れると、客数は今のところ5人ほど。椅子席は全部で38あるけど、コロナ以来ひとつおきなので満席で20ぐらいか。2列目の上手側に陣取る。自分のあとにも何人か入ったので、この日の入りは10人ほどだ。500円をかけると5000円。出演者は3人だから・・・ううっ、少なくて申し訳ないぞと思っていたら、「今日は入ってるねぇ」と客席の後方から聴こえてきた。あらま。
●開演前に「撮影録音は禁止です」といった注意事項を話すのも前座ではなくて出演者なんだけど、ここでウケをねらって見事にすべる人を過去に何人も見た。もしくはそこそこうけたあと、自分の出番の枕でまた同じ話を繰り返している人も最近見ている。つまり、注意タイムからが二つ目さんたちの力量の見せ場なのであるので、こちらとしても心して聞かねばならない。この日は上出来。
●ひとりめは兼好の弟子の三遊亭好二郎。おいらが主催していた「かっぱ寄席」という湯煙り寄席はホテル山水の閉館とともに終わってしまったけど、4回目をやるならこの人と決めていたのが兼好なのだよ。決め手は枕。時の政権さえもズバズバと切り刻む辛口の笑いがたまらなく魅力的だから、で、亀和田武さんとも意見は一致していたんだけど、その兼好の弟子だけあって、枕が秀逸だった。生まれて初めて観た宝塚の異様な間の取り方を「芝浜」だったらどうなるか、みたいな玄人好みの枕で大爆笑。この枕だけでワンコインの元はとれたもんね。噺の「湯番屋」は△だったけど、枕が駄目でネタがいい二つ目よりもずっと伸びしろがあるというものだ。三遊亭好二郎、32歳。いいぞ、いいぞ。
●ふたりめは立川幸之進。立川だけど落語芸術協会に所属する42歳だ。枕は△、噺の「大工調べ」もヒヤヒヤしたけど、なんといっても人柄がよさそうなのだよ。といっても、馬鹿みたいにニコニコしているという意味じゃなくて、家庭や仕事で悩んでいることや落ち込んでいることを隠さず吐露する愚直さに好感が持てるという意味ね。素が面白いので、噺家よりもテレビタレントの方が人気出そうだけど、どうなんだろ。役者でもいけそう。うれしくないかな。すまん。
●三人目は馬生門下の金原亭馬久、37歳。枕は面白くなかったけど、噺がうまかった。「おすわどん」。初めて聞いた噺だけど面白かったなぁ。レパートリーの広さを自負することはある。しかも馬久は声が二枚目なのだよ。顔もいい。かわら版の名鑑に出ている写真よりも今はいい顔をしている。ほかの噺も聞きたくなった。ぱちぱちぱちーっ。
●ワンコイン寄席に満足して外に出るとちょうど昼飯時なり。藪そばで食べるのが筋なんだろうけど、整理券をもらってまで並んで食べるのもしゃくなので、角の六文そばで250円のかけそばをすする。ミニカレーを付けても500円。こちらもワンコインで満たされたのでした。と、ここで終わらないのだよ。後日談があったりして。
●5月30日の消印の葉書が届いたのです。開演前に北海道みやげを差し入れたので、その礼状なんだね。52円の官製葉書に10円切手と1円切手を貼り足して、謹啓で始まり、今後とも若手噺家をよろしくお願いいたしますで結ぶ丁寧な文面なんだけど、問題は差出人なのさ。この日の3人の連名が書かれているうち、三遊亭好二郎が「好次郎」になっているでないの。そんな噺家はいないぞ。代表して書いた人が間違えちゃったんだね。これはこれで貴重なので大切にとっておくけど、名前は間違えちゃ駄目ですぞ、と当り前すぎてつまらないことを書いて終わりにしますだ。備忘録なり。
かっぱ寄席は終わっちゃたけど
落語のページ