●休みの日。天気はやるせないほどの晴れ。
朝いつもより少し寝坊して起きました。
休みの日に目覚まし時計を解除して寝るというのがとても好きです。
でも、大体いつも通りに目が覚めるので、習慣と言うのは恐ろしいものだと思いつつ二度寝しました。
今日はほんとうになにも予定がない日でした。というか気付いたのですが、休みの日はいつも息子といることが多く、それ以外の日はなんだかんだと予定があっても平日できなかったことをするという感じで、今日のように取り立てて急ぎの用事もなく、遊び相手もおらず、何をしたらいいのかという日はいつぶりだろうかと落ち着かない感じでなにをしようかと考えました。
考えてみればぼくは札幌でも美瑛でも休みの日に暇だから遊ぼうぜという友達が一人もいないことに気付いて、すこしブルーになりました。
気付いていましたが確認して自覚すると、ほんとならみんな喜ぶのであろう休日の青空が無性に憎たらしく見えてきました。
今日はなにか悪いことをしてやる、という決意がひとつどろどろと湧き上がってきました。
といっても遊びで札幌に住んでいるわけでもないし、あざらし先生は不眠不休で働いていらっしゃるので、ちゃんとした休日を過ごそうと思いまずは掃除機をかけました。
それから窓を開けて空気を入れ替えて、太陽をにらんでついでに窓の向こうのキレイで大きな一軒家に呪いのビームを1分間照射して、休みの日にしてみたかったけれど、できなかったこと、それでいてすごくくだらないことを思いついたので
実行してみました。それは何かというとほんとにくだらないことなのですが、午前中から缶ビールを飲む、ということだったのです。
休みの日にすることはほかにあるでしょう、といろんな角度からの声が聞こえてきそうなのですが、とりあえず今日はなにもすることがない気でいるので、どうだうらやましいか!と誰もいない部屋で、ひとりで精いっぱい憎たらしい表情で冷蔵庫を開けて缶ビールを取り出し、生意気なクソガキの顔で缶ビールをグビグビと飲みました。
朝から飲む缶ビールは悪魔の味がして、とても悪いことをしているぞと多分ぼくは邪悪な顔で笑いました。
反対に、おれなにをしているんだろうとひとかけらの良心が顔を覗かしたので、午前中はPCに向かっていました。
お腹が減ったので昼飯を外に食べに行くことにしました。といってもここに行こうという目星の付いている店はなく、今日は澄川に引っ越して来て初めて一日ずっと家にいる休日だったので、いい機会だと思い散歩がてら片道10分ぐらいの距離を
うろうろしてみることにしました。
まず最初に足が向いたのが去年まで大きな狸が出迎えてくれる澄川温泉があったところで、話には聞いていましたが、実際に狸が撤去されているのを見ると切なくなりました。
今はコインパーキングになっていて悲しい気持ちになりましたが、こうやって悲しんだりしてくれる人がいるだけ幸せな人生だったなと在りし日の狸と澄川温泉に思いを馳せて近くのラーメン屋さんでしょう油ラーメンと小ライスを食べて徘徊を続けました。
いつも行っている美容室が近くにあるので、先月髪を切ったばかりで用事はないのですがなんとなく前を通ってみました。思えばこの美容室にはもう8年ぐらい通っていて、澄川に引っ越してきたことと何も関係はないですが、なにか縁のある土地なのかもしれないなと思いながら、少し昔のことを思い出したりして歩きました。
成人してからぼくの髪を触ったり切ったりしたことがあるのはここのおばちゃんだけなんだよなぁ、とよくわからないことを思ったりしました。
澄川温泉があった時は、地下鉄に乗って髪を切りに行って、澄川温泉に入って地下鉄に乗って帰るのが休日のゴールデンコースでした。地下鉄で澄川駅に行って、おばちゃんとしゃべりながら髪を切ってもらって、若いんだから髪ぐらいセットしなさいと切り終わった髪をセットしようとするおばちゃんにこのあと澄川温泉に行くからと固い意志でセット不要の申し出をして、あんたそんなんじゃモテないよと言うおばちゃんに、あっかんべーをして風呂に入って帰っていたいつかの休日を思い出し、今日はどんな休日にしようかな、新しいゴールデンコースがみつかるといいな、と思いながら西岡の方へと歩いてみました。
しかし結局その日ぼくはゴールデンコースを見つけることはできず、しょぼしょぼと西岡から澄川駅を大回りして、買いたいものがあったので澄川温泉があったところの隣にあるツルハに行きました。途中澄川で初めて行ったお酒を飲ませてくれるお店の前も通りましたが、定休日の日曜の昼下がりには人の気配もいつかの喧騒の残り香もありませんでした。
ツルハで歯ブラシを必要以上に吟味して、結局いつもと同じものを選んでレジに行くと、ヒマな時間だったのかレジで研修みたいなことをしていて、おばちゃんがおばちゃんを叱るようになにかを教えていました。
こういうのはあまり見たくないので手ぶらなら帰っていたところですが、手に歯ブラシを持っていたのをおばちゃん二人に見つけられ、お互いなにか研修的なものを打ち切るきっかけを探していたのか、ふらふらとレジに近付いて行ったぼくをロックオンしてぼくとしては嫌な感じでレジに案内されました。
明確な力関係が、この同世代で似たり寄ったりななおばちゃん二人の間にはあるらしく、ステレオタイプに上司と新人という風に分かれていました。
ぼくはただ歯ブラシを買って118円を払うだけなのに、と思いながら丁寧に研修の成果を似たようなおばちゃんに見せつけるようにマニュアル的に大げさに会計する新人風のおばちゃんにお金を払って店を出ました。
どうして休みの日に歯ブラシを買いに寄った薬局でこんなにもやもやしなきゃいけないんだと思いながら、すぐ隣の個人で昔からやってます的なスーパーに寄りました。と言っても買い物する気はない完全冷やかしモードなのですが、最近適当な自炊が続いているので、お買い得品やお店のウリを見てぼくの自炊欲を刺激して、ピンと来たら来週から本格的な自炊を始めようという目的で来たのです。
カゴ一杯に食料品を積めて歩き回る人や、楽しそうにひと固まりになって狭い店内を動き回る家族を見て、世の中いろんな人がいるなぁと自分のことも思いながら
そう感じました。
ツルハのレジのおばちゃんも仕事に慣れてニコニコとレジで愛想よくしてくれたらいいんだけど。なんて祈りながらスーパーを2周して、これはぼくの中で伝説のスーパー、「西野のマンボウ」の澄川ローカル版みたいなところだな、とわかった気になって、少し自炊欲が刺激された状態で手ぶらで今日のところはそのお店を後にしました。
しかしこういうのはヒマだからできることなのですよね。ほんとはやることがいっぱいあるのかもしれないけれど、なんとなく今日のぼくにはこういう時間が必要だった気がします。
農業見習い中
白木哲朗のエッセイ百番勝負